慶應義塾大学21世紀COEプログラム
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  多文化多世代交差世界の政治社会秩序形成―多文化世界における市民意識の動態 Designing toward the Ordering of Political Society in a Multi-cultual and Pluri-generational World  
    
   
 
研究概要
 
 大学名: 慶應義塾大学
  専攻名: 法学研究科政治学専攻、メディア・コミュニケーション研究所、
法学研究科民事法学専攻、社会学研究科社会学専攻
  学問分野: 社会科学
  拠点のプログラム名称: 多文化多世代交差世界の政治社会秩序形成―多文化世界における市民意識の動態―
  拠点リーダー氏名: 小林良彰
 
■プログラムの概要  
本拠点では、多文化世界における市民意識の動態を実証的に研究・教育する拠点を構築することを目的とする。こうした拠点が必要となる理由は、近年、グローバル化の進行とともに多くの国家・社会において多文化間の衝突が顕在化していることがあげられる。こうした状況に対し、従来の政治学では、各国の政党・政治家、官僚、利益集団といった特定の政治的社会的指導者層を主たる分析対象とし、各国の指導者間の対立を「説明」することには大きく貢献してきた。しかし、多文化間の対立は、政治的指導者層の間だけで解決できるものではなく、市民がどのような意識を持っているのかを明らかにし、その意識がどのような要因によって変化し、政治システムに影響を及ぼすのかという問題を解明することが必要になる。したがって、多文化世界における市民意識の動態の生成と変化のメカニズムを解明し、従来の政治学における主として政治的指導者層を対象としてきた研究成果と相互補完的に調査研究を進めることで、多文化共生の方向を考える拠点を形成したい。
 
■平成15年度研究概要  
平成15年度は、日本をはじめとする各国の市民意識について分析を行う「多文化市民意識研究センター」を立ち上げ、市民意識研究に関する本プログラム推進のための拠点とした。また、同センターで収集したデータ、あるいは調査を実施して得られたデータをXML化対応で収録し、諸外国に対して公開する「市民意識データアーカイヴ」を拡充した。 T:多文化意識研究センターでは、下記のことを行った。(1) 研究班の研究リーダーの下に研究メンバーを公式決定し、大学院生を含めた研究体制を組織化の上、発足した。(2)その上で、@市民意識日本分析班では、調査設計(項目選定、サンプリング)と第一回パネル調査を実施した。具体的には、平成15年10月から11月にかけて全国で3,000人規模の面接調査を行った。A市民意識比較分析班では、調査設計(調査項目決定)と共同調査パートナーの選定及び研究協力会議の開催を行った。具体的には、平成16年度に韓国で行う市民意識調査のために、延世大学政治外交学科教員・院生と調査準備作業を行った。B市民意識メディア分析班では、内容分析のためのメディア・コミュニケーション情報の収集収録を行った。具体的には、日本における主要なメディアの報道内容を収集収録した。また、 @〜Bが協力して、センター内における調査手法の開発のためのワークショップやシンポジウムの開催を行った。 U:市民意識データアーカイヴでは、これまで開発してきた多言語検索型データベースをXML化するための作業手順を決定すると共に、XML化対応データベース構築に必要なプロダクト及び機材の購入を行い、順次、XML化の作業を進めた。
 
■平成16年度研究概要  
平成16年度は、本研究拠点における4つの研究ユニットで、以下のことを実施した。 T)「市民意識日本分析ユニット」では、昨年度に引き続き、市民意識に関する第2回パネル調査を行った。具体的には、2004年8月21日から9月7日にかけて、日本全国の20歳以上の男女個人、3,000人を対象とした大規模な面接調査(「社会意識に関する世論調査」)を実施した。また、この調査データを基に、市民意識の変化について分析を行った。 U)「市民意識比較分析ユニット」では、日本で行った調査と同様の調査項目を用いて韓国で調査を行った。さらに来年度本格的な調査を行うロシア・マレーシア・中国での市民意識に関するプレ調査を実施した。 V)「市民意識メディア分析ユニット」では、日本におけるパネル調査間のニュース報道を収録し、分析した。 W)「市民意識データ・アーカイヴユニット」では、データベースの拡充とXML化の推進を行った。 また、研究成果を国内外への発信し研究ネットワークを広げるため、以下のことを実施した。まず、第2回国際シンポジウムを開催、国内の他大学から38 名、海外の研究者13名を招聘し、当日は計500名の参加を得て活発な議論が行われた。なお、本シンポジウムの研究成果は、叢書21COE-CCC多文化世界における市民意識の動態として平成2005年3月に刊行された。さらに、本研究拠点形成に関わる研究を行う若手研究奨励費を受けた大学院生の研究成果を報告するために、院生研究報告会を行い、全報告者が報告原稿を提出した。さらに、国内外の研究者との連携を強化するため、市民意識に関する研究を行っている国内の大学(東京大学、東北大学、香川大学など)をはじめ、国外の大学(亜州大学、培材大学など)や研究機関など、30大学、計33名が学外協力者として本拠点の事業に参加している。また、延世大学政治外交学科の全面的な協力を得て韓国との比較分析を行い、将来にわたる継続的連携関係を築くことができた。また、国際通信経済研究所などの機関から研究者のプロジェクト参加協力を得て、メディア内容分析を行っている。
 
■平成17年度研究概要  
平成17年度は、中間評価のコメントを受けて、本拠点の研究ユニット・同サブユニットを再編し政治社会秩序形成ユニットを設け、新たな研究課題として政治社会秩序形成を組み入れること、また本拠点を中心に海外の研究機関との共同研究を進めることで本拠点の国際化をはかることに力を注いだ。
  I.. 「市民意識日本分析ユニット」では、日本における市民意識の第三回パネル調査を実施して、日本人の対外意識やアジア市民意識に関するデータ入力ならびに分析を行い、市民意識の変化とその要因を分析した。具体的には、平成17年9月に日本全国の20歳以上の男女個人1,751人を対象とした大規模な面接調査(「社会意識に関する世論調査」)を実施した。また、従来の世論調査データならびに平成15、16年度の本拠点で実施したパネル調査の分析を行った。また、国内の多文化意識を解明するために、都市部と地方での意識の共通性と相違を明らかにするために、全国都道府県議会議長会の協力を得て、わが国で初めての全都道府県議会議員・全知事・全幹部職員の計4,000名超に対する大規模な意識調査を実施し、都道府県を越えた道州制や地方分権に関する関係者意識の構造を解明した。
II.. 「市民意識比較分析ユニット」では、日本で行った調査と同様の調査項目を用いてロシア、トルコ、レバノン、フィリピン、インドネシア、シンガポール、タイ、バングラデシュ、オーストラリアの九ヶ国で市民意識調査を実施してデータ入力ならびに分析を行い、それまでに調査を終えた中国や韓国、そして上記、市民意識日本分析ユニットで行った日本を合わせた十二ヶ国における近隣諸国に対する対外意識の構造がどのように異なるのかを分析した。
III.. 「市民意識メディア分析ユニット」では、これまでに収録したニュース情報の内容分析を行い、パネル調査間の市民意識の変化との関連を分析することで、メディアコミュニケーション情報が市民意識の形成と変容にもたらす影響を分析した。また、ニュース情報の中から特定の争点を抽出し、その争点に関するア)政治関係者の言動や決定、イ)マスメディアの論調、ウ)一般市民の言動をカテゴリー化して内容分析し、三者間の関連について検証した。また、テレビニュースが市民の政治意識に及ぼす影響を明らかにすべく、平成15年度からの活動において構築したテレビニュース番組を録画したデータアーカイヴ(全国ネット局(NHK、NNN、JNN、FNN、ANN)の全報道ニュース番組を収録)を利用して、平成15年12月から平成16年8月までに放送された2番組を分析対象としたテレビニュースの内容分析を行った。
IV. 「政治社会秩序形成ユニット」では、上記、市民意識日本分析ユニットならびに市民意識比較分析ユニットがこれまでに行った市民意識調査データを用いて、日本や韓国、中国を含む計11ヶ国におけるトランスナショナルアイデンティティがどのような要因によって形成され、またどのような要因によって阻害されているのかを分析した。また、同様の質問項目を用いたEUにおける調査データと比較することで、EUにおけるトランスナショナルアイデンティティの形成がアジアでも可能かどうかを探ることにした。
V. 「市民意識データ・アーカイヴユニット」では、ロシア関連データを加えてデータベースの拡充とXML化の推進を行った。具体的には、ロシアの国勢調査データ(平成14年)、世帯・移動調査データ(平成16年と平成17年)、選挙データを収納する作業を進め、完了した。とりわけ選挙データでは、91 年から行われている大統領選挙、連邦議会国家会議議員選挙(上・下院)以外にも国民投票データも含まれているため、本拠点の調査研究がより広がりを持つものと期待される。また、収納された調査データの安全性を確保するためバックアップ機能を設定した。さらに、同データアーカイヴは日本人のみならず、諸外国の研究者も利用できるよう5ヶ国による多言語検索型データベース(特許取得済み)となっており、現段階で、日本、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、韓国、中国の6ヶ国における法律検索、判例検索(中国を除く)、国勢調査検索(マレーシア、フィリピンを除く)、選挙結果検索(シンガポール、フィリピン、中国を除く)が、母国語で検索可能となっている。
 
■平成18年度研究概要  

平成18年度は、平成17年度に編成された政治社会秩序形成ユニットに従来の研究ユニットを合わせた計5つのユニットのもと、以下のことを実施した。

(1)「市民意識日本分析ユニット」では、第4回パネル調査を実施し、分析した。具体的には平成15〜17年度に引き続き、2007年2〜3月、日本全国の20歳以上の男女個人を対象とした大規模な面接調査(「市民意識に関する世論調査」)を実施し、十分なサンプルを回収することができた。さらに、横浜市選挙管理委員会の依頼により平成18年3月26日に行われた同市長選に際して同委員会が実施した「横浜市における市民意識の動態と効果的な選挙啓発事業に関する調査」のデータを計量的に分析し、都市部有権者の積極的な投票参加を促すのに有効な選挙啓発活動について検討した。

(2)「市民意識比較分析ユニット」では、市民意識パネル調査を実施し、データ入力ならびに分析を行い、各国の市民意識を比較分析した。平成18年度は、日本で行った調査と同様の調査項目を用いて、グアテマラ(2006年10月10日〜11月5日)、インド(2006年12月13日〜31日)、韓国(2007年2月22日〜3月15日)の3ヶ国で大規模な市民意識調査を実施してデータ入力ならびに分析を行い、それまでに調査を終えた11ヶ国、そして上記市民意識日本分析ユニットで行った日本を合わせた計15ヶ国における近隣諸国に対する対外意識の構造がどのように異なるのかを分析した。

(3)「市民意識メディア分析ユニット」では、これまでに収録したニュース情報の内容分析を行い、パネル調査間の市民意識の変化との関連を分析する。とくに、本拠点採択年度以来構築しているテレビニュース番組を録画したデータを利用して、テレビニュースの内容分析を継続した。平成18年度は、日本のニュース番組と韓国のニュース番組において報道された相手国のイメージ分析を基にして、パネル調査間の市民意識の変化との関連を分析した。

(4)平成17年度新たに設けられた「政治社会秩序形成ユニット」では、各国の枠組みを超えた市民意識の構造を計量的に明らかにするとともに、その形成要因ならびに変容要因を解明した。平成18年度は、市民意識日本分析ユニットならびに市民意識比較分析ユニットがこれまでに行った市民意識調査データを用いて、日本や韓国、中国を含む計15ヶ国におけるトランスナショナルアイデンティティがどのような要因によって形成され、またどのような要因によって阻害されているのかを共分散構造分析を用いて分析した。  

その結果、アジア諸国に対する信頼感や一般的信頼感とトランスナショナルアイデンティティの程度との関係性がさほど見出されなかった要因として、トランスナショナルアイデンティティの項目では国家と国家を越える共同体が競合するものとして捉えられているという点、信頼感とトランスナショナルアイデンティティとの間に媒介する変数が存在する可能性があるという点が新たな知見として明らかになった。

(5)「市民意識データ・アーカイヴユニット」では、ロシアを含むアジア諸国のアグリゲートデータならびにサーベイデータのインストール作業ならびにデータ・アーカイヴのXML化作業を継続した。平成18年度は、データの更新と地方財政等の市町村別データの投入を行った。具体的には、同データ・アーカイヴの地図データを平成17年度版へと更新し、さらに従来より地図表示機能を強化した。また、平成17年以前の国勢調査データを上記地図データに表示させるよう、合併データ変換に対応させた。さらに、同データ・アーカイヴに、地方財政等の市町村別データのうち平成15年度までの社会人口統計体系と平成17年度までの社会生活統計指標を収納した。  

また、とくに本年度においては、海外の研究機関、とりわけ韓国の研究機関との共同研究体制を推進することで、本拠点の国際化に向けた取り組みを継続した。具体的には、韓国社団法人・地方議会発展研究院との学術交流協定(平成18年6月1日)、韓国青少年開発院との学術協定(平成18年10月1日)、延世大学校BK21との学術交流協定(平成18年11月24日)を締結した。また、本年度の国際シンポジウムにおいては、アジア政治研究連合(ACPR)・国立女性教育会館(NWEC)・JES IV研究会・韓国選挙学会(KESA)・韓国延世大学校BK21など、国内外の他研究機関と連携して多数のセッションを共催した。

 
■平成19年度研究概要  

平成19年度は、本拠点の研究計画を完成に移すべく、5つの研究ユニットのもと、以下のことを実施した。

(1)「市民意識日本分析ユニット」では、第5回パネル調査を実施し(2007年6月〜7月)、同時にこれまで計5回行った日本全国のパネル調査結果を実証的に分析することで、文化観の政治意識・態度の差異や政治的社会化に関する実態を明らかにした。本ユニットの研究成果は、叢書21COE-CCC(慶應義塾大学出版会)より、小林良彰・中谷美穂・金宗郁著『地方分権時代の市民社会』(2008年)、渡辺秀樹・有末賢編著『多文化多世代交差世界における市民意識の形成』(2008年)など計28巻として刊行されている。また、東京都選挙管理委員会の依頼により平成19年に行われた同知事選と参議院選に際して同委員会が実施した東京都在住有権者を対象とするのデータを計量的に分析し、都市部有権者の投票参加に対する効果的な選挙啓発活動について検討した。

(2)「市民意識比較分析ユニット」では、市民意識パネル調査を実施し、データ入力ならびに分析を行い、各国の市民意識を比較分析した。平成19年度は、日本で行った調査と同様の調査項目を用いて、韓国(2007年6月18日〜8月2日)で大規模な市民意識調査を実施してデータ入力ならびに分析を行い、アジアを中心とする計15ヶ国における市民意識構造を比較政治論的に解明した。本ユニットの研究成果は、叢書21COE-CCCより、小林良彰・富田広士・粕谷裕子編著『市民社会の比較政治学』(2008年)、山本信人編著『多文化世界における市民意識の比較研究』(2005年)など計7巻として刊行されている。

(3)「市民意識メディア分析ユニット」では、これまでに収録したニュース情報の内容分析を行い、パネル調査間の市民意識の変化との関連を分析した。具体的にはテレビニュース番組を録画したデータアーカイヴを利用することでで、異文化に対する市民意識の変化にニュース情報がどのような影響をもたらすのかを解明した。本ユニットの研究成果は、叢書21COE-CCCより、伊藤陽一・河野武司編著『ニュース報道と市民の対外国意識』(2008年)、伊藤陽一編著『文化の国際流通と市民意識』(2007年)など計4巻として刊行されている。

(4)「政治社会秩序形成ユニット」では、各国の枠組みを超えた市民意識の構造を計量的に明らかにするとともに、その形成要因ならびに変容要因を解明する。平成19年度は前年度に引き続き、市民意識日本分析ユニットならびに市民意識比較分析ユニットがこれまでに行った市民意識調査データを用いて、東アジアを中心とする15ヶ国におけるトランスナショナルアイデンティティの形成要因、またその阻害要因を抽出し、EUをモデルとするトランスナショナルアイデンティティの形成がアジアでも可能かどうかを分析した。本ユニットの研究成果は、叢書21COE-CCCより、関根政美・塩原良和編著『多文化交差世界の市民意識と政治社会秩序形成』(2008年)、田中俊郎・小久保康之・鶴岡路人編著『EUの国際政治』(2007年)など計5巻として刊行されている。  

以上の研究を通じて明らかになった知見とは、アジア諸国においては自国に対する信頼感や一般的信頼感とトランスナショナルアイデンティティの間の関連がEUにおける直接的な影響とは異なり間接的な影響をもつこと、トランスナショナルアイデンティティがEUでは国と国の連合を想定しているのに対して、アジアでは国民国家の枠組みを超える共同体を想定する人が多いこと、人的交流や経済的交流が好意的な他国意識やトランスナショナルアイデンティティの形成に有効に寄与し、そのための法制度が効果的な促進要因となることである。  

こうして、本拠点が5年間のプログラムを通じて得た知見により、日本研究を含む地域研究が、市民意識の動態に着目しつつ、対象地域に留まることなくローカル・ナショナル・リージョナル・グローバルな比較の視点を用いることで、多文化多世代交差世界に政治社会秩序の形成を見出しうる可能性が高まることが確認され、その結果本拠点が当初より掲げていた問題設定が多大な成果をもたらすことが確認されたと考える。

(5)「市民意識データ・アーカイヴユニット」では、ロシアを含むアジア諸国のアグリゲートデータならびにサーベイデータのインストール作業ならびにデータ・アーカイヴのXML化作業を継続し、同時に多言語検索機能の強化を行うことで、市民意識研究の包括的データ・アーカイヴを構築した。具体的には、6ヶ国語による多言語検索機能に加え新たにロシア語のデータを投入して7ヶ国語対応にした。その結果、日本、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、韓国、中国の7ヶ国における法律データ、判例データ(中国を除く)、新聞データ(フィリピンを除く)の全データに、多言語検索機能を通じて7ヶ国語からアクセス可能となっている。本アーカイヴは、21COEプログラム終了後も市民意識研究のためのデータ・アーカイヴとして世界中の研究者に公開される予定である。